2015/11/01

おかげさまでハセツネ(日本山岳耐久レース)72kmをなんとか完走しました!タイムは予想から大きく遅れて16時間35分。



自分のすべてを背負って夜間の山を行動するという特殊なレースで味わったのは、「苦しい」とか「きつい」ではなく「怖い」でした。


気持よく走れたのは最初の3時間ほどだけ。その後発生した想定外の様々なトラブルは「互助禁止」というルールのもと、自分で"どうにか"して解決させなければならず、それは速く走るよりもずっと難しくて、早々に目標を「早く帰る」よりも「無事に帰る」ことに設定しなおしました。これらの、通常のレースなら周囲の参加者や応援部隊にお願いすればすぐに解決できるトラブルにハセツネで直面したとき、自分がどれだけ環境に恵まれ、それに頼っていたのかもクッキリとわかったのです。


一番の誤算はヘッドライトが使いものにならなかったこと。
持って行った機種の光量が絶望的に少なく、走るどころか歩くためにも役不足。ヘッドライト単独での試用を怠ったことを大後悔しました。
これにより、ヘッドライトが使えない=ハンドライトを片手で使う=ノルディックポールを両手で使えない、という図式になり、ダメージを負った足の十分なフォローができず、速度は激減。どうしてもポールを使って足を守りたいところでは、ヘッドライトの照らすぼんやりとした視界と上体に全力で頼って牛歩。おかげで普段ろくに鍛えていない腕や肩まで痛み始めました。

途中からリストバンドにハンドライトを固定して照らすという方法も試しましたが、これも決して快適とはいえず、何より安全面に不安があります。崖っぷちや切り立った尾根などでは、"一歩先の死"に触れないよう神経をガリガリに削っての進行。気温は予想通り息が白くなるほどに下がり、荷物の入れ替えなどで5分も止まっていると身体がガタガタ震えだすので休憩も十分にできません。
途中、何人もコース脇で眠っているのを見かけましたが、凍死しないかこちらが不安でした。


一方、唯一の成功はエネルギーと消化機能の管理でしょう。食事は基本的に自作ジェル。身の回りで最も量に対するカロリーが高いカルピスぶどう味の原液を粉飴に混ぜて作った水飴のようなものです。
決して胃液の分泌量を乱さないように、暇さえあればジュルジュルとすすってはじゅうぶん唾液に絡めて飲み込むことの繰り返し。
そして合間合間に塩・アミノ酸・クエン酸のサプリメント。こんな手続き的な食事はこれまで経験したことがありませんでした。色々固形物も持って行きましたが、ほとんど手を付けず残しています。
また、逆算して摂取後20時間がレース中にかぶるような前日からの食事は全部抜いたおかげで、今回はトイレ問題も皆無でした。これは今後にも活かせそうです。

真っ暗闇で何も聞こえない寒い山の中での16時間、それは競争ではなく生存でした。明け方、ゴールのある人家が見えてきた時に感じたのは、達成感ではなく安心感。
途中に何箇所かスタッフが配員されてはいるものの、そうでないポイントで食料や水が切れたら、ライトを落としたら、電池が切れたら、怪我して行動不能になったら、全部が死につながるという経験は、このレースが初めてです。
そんなわけで、今回については決して「楽しい」と言えるようなレースではありませんでしたが、ゴールできたことで「ハセツネに比べれば」と考えると大抵のものが大したことなくなるような安心が得られました。


これだけの目に遭い、走っている間は「もう二度と出たくない」と思っていたのが「次はもっとうまくできる」という気持ちが徐々に大きくなってきました。不思議なレースです。
なにはともあれ、途中で応援してくれた皆様、運営スタッフの皆様、そして深夜に応援に駆けつけてアフターフォローまで万全に用意してくれた妻子に感謝します。
本当にありがとう!


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